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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)15168号 判決 1985年7月16日

原告 荒井まき江

<ほか一名>

原告ら訴訟代理人弁護士 岡田一三

同 北新居良雄

同 大西清

被告 古立正芳

被告訴訟代理人弁護士 船越廣

主文

一  被告は原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、東京法務局渋谷出張所昭和五二年一月一一日受付第七二一号賃借権設定仮登記(別紙登記目録(一)(3)の登記)の、別紙物件目録(二)記載の建物について、同出張所同日受付第七二四号賃借権設定仮登記(別紙登記目録(二)(3)の登記)の各抹消登記手続をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分して、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、別紙登記目録(一)(1)(3)記載の各登記の、同物件目録(二)記載の建物について、同登記目録(二)(1)(3)記載の各登記の各抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)は、もと原告らの先代訴外亡荒井栄太郎(以下「栄太郎」という。)が所有していた。

2  栄太郎は、昭和五七年一〇月一六日死亡し、原告らが相続により本件不動産の所有権を取得した。

3  本件不動産につき、別紙登記目録(一)(1)(3)(二)(1)(3)の各仮登記がなされている。

よって、原告らは、被告に対し、所有権に基づき、本件不動産につきなされた右各仮登記の抹消登記手続を求める。

二  被告の本案前の主張

原告ら所有名義の本件不動産につき、被告は、請求原因3記載の各仮登記を有していたが、昭和五八年五月一九日、昭和五二年一月八日売買を原因とする訴外小堀貞への別紙登記目録(一)(2)(4)(二)(2)(4)の各登記手続が経由され、被告は既に本件抹消登記請求事件の目的たる各登記の名義人ではない。

よって、被告は、本件訴訟における当事者適格を有しないから、本件訴えは、訴訟要件を欠き不適法である。

三  請求原因に対する認否

請求原因事実中、2の事実は否認し、その余は認める。

第三《証拠関係省略》

理由

一  まず、別紙登記目録(一)(1)(二)(1)の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続を求める請求について検討するに、《証拠省略》によれば、右(一)(1)(二)(1)の各仮登記された権利は、譲渡され、同目録(一)(2)(二)(2)の附記登記が経由されていることが認められるところ、このような場合、右附記登記は被告名義の前記所有権移転請求権仮登記(主登記)と合体して附記登記名義人(訴外小堀貞)の所有権移転請求権を公示するものであり、附記登記名義人が同時に主登記の登記名義人になっているものと解すべきであるから、被告に対し、主登記のみの抹消を求める利益と必要性につき、特段の主張も立証もない本件において、被告は、右(一)(1)(二)(1)の登記の抹消登記義務はないものといわざるをえない(右登記の抹消を求めるには現在の登記名義人である訴外小堀貞のみを被告とすれば足りる。最高裁昭和四四年四月二二日判決、民集二三―四―八一五参照)。したがって、被告に対し右登記の抹消登記手続を求める請求は理由がない。

二  次に、同目録(一)(3)(二)(3)の各賃借権設定仮登記の抹消登記手続請求について検討するに、《証拠省略》によれば、右(一)(3)(二)(3)の各仮登記された権利も、譲渡され、同目録(一)(4)(二)(4)の附記登記が経由されていることが認められるところ、右附記登記は、賃借権移転仮登記(賃借権設定請求権移転ではない)であり、いわゆる附記の仮登記であるから、主登記と附記登記が合体したものではなく、附記登記名義人が同時に主登記の登記名義人になっている場合とは異なるので、賃借権の譲受人である附記の仮登記名義人(訴外小堀貞)の承諾を必要とはするが、譲渡人である被告に対し、被告名義の前記各仮登記(主登記)の抹消を求めることが可能であるといわざるをえない(附記の仮登記に基づく本登記をする場合には、主登記である仮登記を本登記にした後、附記の仮登記の本登記をすることになるから、所有権が順次移転した場合の中間者に対し抹消を求める場合と変りない。)。

三  そこで、同目録(一)(3)(二)(3)の各仮登記の抹消登記手続を求める請求についてのみ以下判断する。

1  請求原因1及び3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、栄太郎が昭和五七年一〇月一六日死亡し、本件不動産につき原告らが相続により所有権(持分各二分の一)を取得した事実が認められる。

2  被告は、同目録(一)(3)(二)(3)の各仮登記を正当な権限によって取得したとの点につき何らの主張も立証もしない。

3  したがって、別紙登記目録(一)(3)(二)(3)の各仮登記の抹消登記手続を求める部分の請求については理由がある。

四  以上の次第であるから、原告の本訴請求中、別紙登記目録(一)(3)及び(二)(3)の各仮登記の抹消登記手続を請求する部分を認容し、同目録(一)(1)及び(二)(1)の各仮登記の抹消登記手続を請求する部分を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉崎直彌)

<以下省略>

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